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土は廃棄物ではない? 法律の目が届かない「盛り土・残土」の危うさ

  • 13 時間前
  • 読了時間: 5分

◆ はじめに

建物を建てたり、道路を造ったり、トンネルを掘ったりする工事では、必ず大量の「余った土や石」が出ます。これを「建設発生土」、通称「残土石」と呼びます。


この残土石が、実は私たちの暮らしと深いところでつながっている——

そのことを、多くの方はまだご存知ないかもしれません。


今回は、盛り土・残土問題の本質についてお話しします。


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◆ 「建設発生土(残土石)」とは何か?

建設工事から出るものは「建設副産物」と総称され、コンクリートの破片・アスファルトのかけら・木材・金属くず・汚泥など、さまざまな種類があります。


国土交通省の平成30年度(2018年度)調査によると、日本では年間約2.9億㎥の建設発生土が生まれており、そのうち現場内で約1.6億㎥が有効利用され、残りの約1.3億㎥が工事現場の外に運び出されています。


なお、都市部の工事では砂が多い「残土」が出ますが、山岳部の高速道路やトンネル工事では岩が多く出ます。私はこれを「残石」と呼び、両方を合わせて「残土石」と表現しています。


この残土石は、土地造成・谷間の埋め立て・低地の嵩上げ・農耕地への客土(土の補充)など、土地の有効利用に活用される貴重な資材です。



◆ 「残土石だけ」が法律の外にある——ここが問題の核心

建設副産物のうち、コンクリートくずや木材・金属くずなどは、「廃棄物処理法」という法律で厳しく管理されています。この法律の根本的な考え方は「排出者責任」——つまり、廃棄物を出した人が最後まで責任を持つ、ということです。


どこから出て、どこへ運ばれたかが追跡でき、不法投棄には重い罰則があります。


ところが、土(建設発生土)は廃棄物に該当しないものとされ、いわゆる「残土条例」を制定している自治体を除けば、場外に搬出される土砂の安全を担保する一元的な社会制度が存在しない状況が続いています。



◆ 「残土だから安全」という思い込みの危険性

私は長年、首都圏各地に赴き、建設発生土とその埋め土層・盛土層の有害物質モニタリングを継続してきました。その結果、殆どの試料から何らかの有害物質の溶出が確認されました。中には重金属類が2〜3桁(通常の土壌層と比べ100〜1000倍)もの濃度で含まれていたケースや、PCB(ポリ塩化ビフェニル:かつて電気機器などに広く使われた有毒な化学物質)や未規制有害物質が混入していたケースも認められました。


なぜそんなことが起きるのでしょうか。


それは「再資源化」「再生利用」などの言葉のもとで、廃棄物と資源物の選別が不徹底なまま、有害物質の分析義務が課されることなく土が流通してしまっているからです。そして世間一般に「残土だから安心」という盲信が蔓延しているからです。


本来、残土石は土地造成・低地の嵩上げ・農耕地への客土など、土地の有効利用や不動産価値の向上を図る貴重な資材として活用されるべきものです。だからこそ、有害物質の混入がない「優良な資材」でなければならず、あらゆるリスクに対して技術的にも経済的にも責任負担能力を組み込んだ社会システムが必要なのです。




◆ 君津の条例改正と、関東地下水盆

こうした問題に全国で初めて正面から向き合ったのは、千葉県市川市でした。昭和50年頃から都内の建設現場から排出された土が市内農地へ持ち込まれていた市川市では、1980年(昭和55年)6月に水田埋立現場で幼児2名の水死事故が発生。これを契機に同年10月、日本初の残土条例が制定されました。

その動きに危機感を持った君津地方(君津市など3市1町)も、協力して市川市の条例を研究。1989年(平成元年)、君津市で残土条例が施行されました。


君津は、東京湾を通じて都心と結ばれた「骨材(砂・砂利)の一大供給地」です。都心へ砂を運んだ船が、帰り便に残土を積んで戻ってくる——

その構造の中で、残土問題は決して他人事ではありませんでした。


さらに1996年(平成8年)12月、私が改正を主導し、「土壌環境基準25項目(当時の項目数)」「水素イオン濃度指数pH4〜pH9(土の酸性・アルカリ性の指標)」を条例に組み込み、市議会で可決されました。翌朝の新聞には「全国初 残土に環境基準」という見出しが踊りました。


ここで重要なのは、この取り組みが単なるローカルな防災対策ではなかったという点です。


君津が位置する房総半島は、「関東地下水盆」——関東平野の地下に広がる、日本最大規模の地下水の貯蔵庫——の入り口(縁辺部)にあたります。

つまり君津での地質汚染は千葉県1県の問題ではなく、関東平野全体の地下水の安全に直結する問題でもあるのです。



◆ 「1/3000」から「1/47」へ——しかし本質は変わらない

1つの自治体が堤防を嵩上げしただけでは、本質は変わらない。

その後、君津市の条例改正を受けて千葉県も独自の条例を制定しました。

ただそれは、1/3000(当時に市町村数は約3000)の堤防が1/47(都道府県数)の堤防になっただけであり、47都道府県の1つが動いたにすぎません。


すべての堤防が同じ高さになって、初めて水は防げるのです。



◆ 今、本当に必要なこと

熱海土石流災害を機に、全国3万カ所を超える「盛り土」総点検が実施され、全国知事会も建設残土について全国統一基準や規制を設ける緊急要望を国に申し入れたと聞きます。


しかし必要なのは対症療法ではなく、国による全国一元的な新しい法制度の創設です。


廃棄物を不法に処理した場合、廃棄物処理法では3億円の罰金が科されます。それと同じように、災害や環境汚染を引き起こす残土の処分もまた、経済犯罪として認定されるべきではないでしょうか。


1998年の国際シンポジウムでは、先進国の中で日本固有の仕組みである「残土の便法」が議論され、その議論の中で「Surplus Soil(余剰土)」という学術用語が初めて定められました。これは「残土」という概念が日本固有のものであるという事実が、国際的な場で改めて浮き彫りになった瞬間でした。

 
 

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